
1.何アンペアの電流が危険?
生活に欠かせない電気。でも使い方を間違えると大変危険。
42(死に)ボルトなんて言うらしく、42V以上は命を脅かす電圧の大きさのようです。
が、家庭で使用している電圧は100Vです。
だいぶ超えています
それに静電気の電圧は数万ボルトあるとか。
一体、人体に危険な電気ってなんだ、というところから話を始めます。
人体に危険かどうかは、電圧ではなく、電流が重要です。
家のブレーカーに20A(アンペア)とか書いてあるのは、電流の大きさです。
なぜ電流が流れすぎると、止めるようにしているのか。
それは電流が多く流れると、家の中の電線が焼けてしまうから。
電線には流していい電流の大きさが決まっているのです。
人間の体も耐えられる電流の大きさが決まっていて、それを超えると大火傷してしまったり、臓器に悪影響が出たりして、最悪の場合死んでしまうことがあるのです。
他に電流の周波数によっても危険度が異なります。
周波数は通常使用している50Hz~60Hzを含む周波数帯が最も危険で、周波数が高くなるにつれて危険度が低くなります。
また、直流電流よりも交流電流の方が危険度が高いとされています。
*一般社団法人安全衛生マネジメント協会低圧「電気の危険性について」他
また、人体に流れる電流の継続時間も重要です。
国際電気標準会議(IEC)によると、人体に影響の出る電流値は以下のように公表されています。
(周波数15~100Hzの場合)
| 通過電流 | 継続時間 | 区域 | 人体への影響 |
|---|---|---|---|
| 0.5mA未満 | 無関係 | AC-1 | 一般的に感知できない |
| 0.5mA | 無関係 | AC-2 | 感知できるが害はない(感知電流) |
| 5mA | 5秒未満 | ||
| 5秒以上 | AC-3 | 筋肉収縮、呼吸困難などの発生 充電部を握った際に自分で手を離せなくなる(不随意電流) | |
| 50mA | 1秒未満 | ||
| 1秒超 | AC-4 | 疲労、痛み、気絶、心室細動の発生、心肺停止の恐れあり (心室細動電流) | |
| 500mA | 0.01秒超 |
参考資料:国際電気標準会議(IEC)「IEC 60479-1人間及び家畜に対する電流の影響」
心室細動とは、電撃により心臓に不規則な振動が加わり、原因を取り除いても正常な振動を取り戻せなくなる症状のことです。こうなると脳に酸素が行き渡らず、数分で脳死となります。心停止の一種とされています。
ドイツの物理学者のケッペンは、様々な検証を経て、1秒あたり50mAを超える電流が危険だと発表しました。
そのため、ケッペンの50mAをさらに厳しくした30mAを限界値として感電対策をした海外の実績にならい、日本でも30mAを基準として安全対策を行っています。
電気工事の基準の一つ、内線規程でもこの内容が定められています。
2.感電をシミュレーションしてみる
ここでシュミレーションをしてみたいと思います。
【問題】
一般的な住宅の1つの部屋において、漏電しているコンセントに触れて感電した場合の、人体に流れる電流値を求めよ。ただし、この閉回路では電源側にB種接地工事を施している以外は接地せず、その他の条件は以下の通りとする。
1. 室内に供給されている電源電圧は100Vとする1
2. 人体の抵抗値は3,000[Ω]とする
3. B種設置抵抗値は50[Ω]とする
4. 回路の負荷は以下の通り2
・テレビ(待機時) 25,000[Ω]
・空気清浄機 3,000[Ω]
・ノートパソコン 2,000[Ω]
・スマホ充電器(待機時) 20,000[Ω]
5. 線路抵抗や静電容量など、その他の条件は無視する
まず、回路図を書いてみます。

部屋の家電は並列回路になっているので、合成抵抗 Re は以下のように求められます。

人体に流れる電流は電源側に戻ろうとして B種接地抵抗 へ流れ込みます。
つまり人体の抵抗 RHとB種接地抵抗 RB の合成抵抗は直列なので3050Ωとなります。
家電の抵抗とB種接地抵抗と人体の抵抗を合わせた、回路全体の合成抵抗値 Re と RH + RB は並列接続なので以下のように求められます。

人体に流れる電流値は、人体側と家電側の抵抗値の逆比になるので

よって、この問題の解答として人体に流れる電流値は約33mAとなります。

感電の回路図(数値書き込み)
前述のとおり、30mA以上は人体に危険とされている水準です。
そのため、実際はこのような状況になれば即座に漏電遮断器が動作して、人体に電流が流れる時間はほんの一瞬になるはずです。
今回の計算で使用した公式などはこちらで説明しております。
3.強化される感電対策
感電対策として漏電遮断器ともう一つ、接地極付きコンセントの採用が重要になります。
接地極付きコンセント、接地端子付きコンセントとは以下のようなコンセントです。

プラグを差す2つの穴の下にアース線をつなぐ端子がある

プラグを差す2つの穴の下にもう1つ接地用のプラグを差す穴がある
これらに接続する家電製品が漏電を起こした際、漏えい電流は接地線(アース線)を通って大地に逃がすことができます。
以前から特定機器用コンセントには接地端子付きコンセントの設置が義務付けられています。
しかし、最近では更なる感電事故防止へ向けて、接地極付きコンセントの設置義務は拡大されることになりました。
2022年12月の内線規程の改定により、台所、厨房、洗面所、便所に施設するコンセント、雨線外に施設するコンセントは、特定機器用コンセントと同様に、接地極付コンセントを施設することが勧告から義務的事項となりました。 住宅に施設するすべてのコンセントは、接地極付コンセントとすることが推奨から勧告的事項となりました。
※ちなみに特定機器用コンセントへの接地極付きコンセントの施設が義務になったのは1997年のことで、それまでは勧告的事項でした。
4.接地を施して感電をシミュレーションしてみる
そこで、接地の重要性を示すためにもう一つ問題を解いてみます。
先ほどの問題で触れたコンセントが接地されていた場合を考えてみます。
尚、接地はD種接地工事として接地抵抗を10Ωとして考えます。

まず、D種接地抵抗は人体と並列接続と考えることができるので、合成抵抗は以下のように求められます。

この合成抵抗を流れた電流はB種接地抵抗を通って電源に帰ろうとします。人体とD種の合成抵抗とB種接地抵抗は直列接続なので、その合成抵抗 RH + RD + RB は 9.97 + 50 = 59.97 [Ω] となります。
次に回路全体の合成抵抗を求めます。

回路全体に流れる電流値はオームの法則から、100 [V] ÷ 59.8 [Ω] = 1.67 [A] となります。
そして、その電流値1.67Aのうち人体とD・B種接地抵抗を流れる電流値を求めます。

今回は人体に流れる電流が10ΩのD種接地抵抗に逃げるようになっています。人体の抵抗が3000Ω、D種接地抵抗が10Ωなので、人体に流れる電流値は以下のように求められます。

ということで、D種接地した場合の人体に流れる電流値は 約5mA となりました。D種接地抵抗へは約1.58A流れます。

人体に流れる電流は少なくなりました。前述の国際電気標準会議(IEC)の基準と比較すると、5mAで5秒以下であれば「感知はできるが害がない」電流値と言えます。
5.まとめ
以上のように感電は危険であり、対策として接地を施すことが大切なことがわかります。
しかし日本では海外と比べて電圧が低く(海外は200Vが主流)、長らく接地が義務付けられていないこともあり、コンセントが接地端子や接地極付きになっても、対応したプラグが少ないのが現状です。


このあたりはEV(電気自動車)とEV充電用のスタンドの関係にも似ていて、電器メーカー側と施工会社や設計会社側の両面での推進活動が必要になるのではないでしょうか。
今後の進展に期待したいところです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
漏電などで感電すると人体に深刻な影響がでることがある
対策としては漏電ブレーカーと接地が重要な役割がある
規制強化は進むが、設備の普及にはまだ課題が残る
今回の計算に必要な知識についてこちらの記事で解説しております。


